SVリーグ所属選手がビーチバレーボールに挑戦しやすい環境を整えるプロジェクトがスタート

パリ五輪(2024年)で監督として女子ビーチバレーボール日本代表を率いた山本知寿氏は、過去にアテネ五輪(2004年)女子監督、ロンドン五輪(2012年)男子監督も歴任してきた経験を踏まえ「ビーチバレーボールの歴代のオリンピアンは、ほとんどがもともとインドアで活躍していた選手です。スキルが高いだけでなく、大舞台を経験しているのでメンタルも強く、ビーチ転向後の強化が早く進んでいきます」と言います。
事実、シドニー五輪(2000年)で4位に入った女子の高橋有紀子/佐伯美香組は2人ともインドアでオリンピック出場経験があり、男子では北京五輪(2008年)の切符を手にした朝日健太郎選手、東京五輪(2021年)に出場した石島雄介選手はともにインドアで日本代表の経験があります。
しかし、インドアの選手からするとビーチは謎が多いようで、「『ポイント制ですか?』『ペアはどのように組むのですか?』『サングラスは必要ですか?』『賞金はどうなっていますか?』『スポンサーはどのように獲得するのですか?』といった質問を受けることがあります」と山本氏。そこで、ビーチバレーボールグループ内に窓口を作り、そこに連絡すればビーチバレーボールの仕組みが分かるプロジェクトがスタートしました(プロジェクトリーダーは山本氏)。
今回のタイミングでプロジェクトをスタートさせたのは、SVリーグが始まったということにも関係しています。今後、各クラブが地域に密着した活動をしてことが予想されるため、その中にビーチバレーボールも候補として入れてもらうことを期待しているのです。「そのためには、まず現役のSVリーグ選手やクラブのGM、監督など関係者の皆さんにビーチバレーボールのことを知ってもらわなければなりません。そこでSVリーグの選手が参加できる練習会を行ったり、国内大会に出場してもらったり、現役ビーチバレーボール選手と組んで海外の大会に出てもらったりということを考えています。海外でのビーチバレーボール人気はすごく高いので、関係者の方にも足を運んでいただいて、ビーチバレーボールは面白い競技だということを知ってもらいたいと思っています」と山本氏。

(練習会の様子/左が山本知寿)
そして新たにスタートしたプロジェクトをロールモデルアスリートとしてサポートしているのが長谷川暁子さんです。インドアのNECレッドロケッツ時代はキャプテンも務めていましたが、『もうこれ以上、成長がない』と思いビーチに転向。そしてビーチに打ち込んでいたところ「転向3~4目の時に、『今インドアに戻ったら確実に以前のピークの時よりもうまくなっている』と感じました」と言います。
「ビーチでは弱点があると徹底的に狙われるため、自分の技術を高めるために自覚を持って練習しなければなりません。また、試合中はコーチのアドバイスがもらえないので、ペアと2人だけで戦わなければならず、状況に応じて戦術を考えたり、一方の調子が悪いときやメンタル的に苦しいときはコミュニケーションを取ってお互いにサポートしたりということが必要になってきます。また、相手のこともよく観察するようになります」と長谷川さん。
パリ五輪では9位に入った長谷川さんですが、「パリ本番はもう楽しみました。大変だったのは出場権を取るための予選です。本当にすごいプレッシャーの中で戦っていました」と言います。それでも夢であったパリ五輪への切符をつかみ取れたのは、「それまでの経験の集大成でした」と長谷川さん。
「小学生のときにバレーボールを始めて、東京都大会や全国大会に出場。全国中学校大会では決勝戦で負けた悔しさがあり、春高も決勝戦で負けました。でも、お客さんで満員の代々木体育館でプレーした経験は糧になりました。そして大学ではインカレで2度優勝。Vリーグでは、レギュラーラウンドから決勝ラウンドと戦うだけでなく、一度入れ替え戦にも出ているので、そのときの負けられないプレッシャーはすごかったです。ビーチに転向してからもアジア大会に向けた代表決定戦や東京五輪の代表決定戦などを経験し、そうしたことがすべてパリ五輪の予選で生きました」とのこと。
今後、インドアからビーチに転向してくる選手に向けては、「スキルやメンタルだけでなく、人間力も含めた力が勝ち負けに直結するので、プレーヤーとして全ての面でとても成長できます。私のように、自分の限界を突破して高めていくことができる競技です」とエールを送ってくれました。

(練習会の様子/長谷川暁子)