世界選手権に挑んだビーチバレーボール日本チーム 大会総括
2年に一度開催される「FIVBビーチバレーボール世界選手権2023」が10月6日から15日、メキシコ・トラスカラ州で開催された。世界ランキング上位チームと各大陸の代表チームら男女各48チームが出場。日本からは女子の石井美樹(湘南ビーチバレーボールクラブ)/溝江明香(トヨタ自動車)組、長谷川暁子(NTTコムウェア)/坂口由里香(トーヨーメタル)組の2チームが参戦した。
競技において過酷な環境
トラスカラ州は、首都メキシコシティから東へ車で2時間ほど走り、標高およそ2300mの高地にある街だ。戦いの舞台となったのは、闘牛場。そこに砂を敷き作られたコートはトラスカラ、アピサコ、ウアマントラの3会場、さらにメインコートのほど近くにある公園内に作られた特設コート、合計4ヵ所で熱戦が繰り広げられた。
6日から各4チームによるプール戦がスタート。トラスカラのメインコート、特設コートで試合をする石井は、「日本で言えば、富士山の5合目。砂の上で動けば、当然息は上がる」と環境特性について話す。
トラスカラよりもさらに標高が高いウアマントラの室内闘牛場でプレーした長谷川は「酸素が足りなくなると頭がまわらなくなる。できるだけ休むことを意識して間をとるようにプレーしていた」と述べ、坂口も「心拍数が上がるので丁寧にボールを扱おうと心がけていたが、思うようにボールに力が伝わらない」と感じていた。
石井/溝江組はラッキールーザーへ
石井/溝江組の初戦の相手は、リオデジャネイロ五輪金メダリストのLudwig率いるドイツのLudwig/Lippmann組だった。ブロッカーのLippmannの高さに対し、「ブロックの脇を抜いていこうと思ったけど、パスが乱れて思うように攻撃できなかった。イージーになるとレシーバーのLudwigに簡単に拾われてしまうという意識も拭えなかった」と溝江。決定打を欠いた石井/溝江組はこの試合0-2(12-21,10-21)と完敗した。
続く2戦目は、長年ブラジルのトップに君臨してきたCarol/Barbara組。そんなベテランペアに対し、石井/溝江組は第1セット終盤、対等に渡り合う。「ミスしてもいいからトライすることが大切」と石井が言うように溝江がフルスイングで攻撃を仕掛けていく。調子が上がってきた石井/溝江組はブロックポイントもコンスタントに飛び出したが、第1セットを19-21と惜しくも逃した。第2セットはブラジルが溝江の攻撃に対応。ミスが出始めたところをたたみかけられ、石井/溝江組は9-21とストレートで敗れた。
プール戦最終戦は、イタリアのBianchin/Scampoliと対戦。ここで勝てば、プール戦3位となり、ラッキールーザーに進出できる大事な試合だった。
これまでの2試合から打って変わり、溝江は試合序盤からショットを放っていく。イタリアのディフェンスをかき乱し、主導権を握った石井/溝江組はサーブも走り始める。21-18と第1セットを取り、今大会初めてセットを奪った。続く第2セットもイタリアの反撃を許さず、粘りを見せた石井/溝江組が21-18と2セット連取、初勝利をあげた。
溝江は、「試合前から体調がよくなかったので、スパイクを打ち切れないと判断してショットで攻めていった。自分のストロングポイントをあえて封印したのは、相手のデータにもなかったと思うし、切り替えられたのがよかった」と勝因を語った。
長谷川/坂口組はプール戦敗退
7日に初戦を迎えた長谷川/坂口組の相手は、世界ランキング2位・アメリカのNuss/Kloth組だった。なんとか突破口を開きたい長谷川/坂口組は、徹底的にレシーバーのNussを狙い、ツーブロックでフェイクからのディグを多用。けれども、なかなかブレイクにつなげられず、反撃の糸口が見つからない。後手にまわったところをブロッカー・Klothに抑えられ、第1セット、第2セットともに0-2(15-21,15-21)とストレートで敗れた。
2試合目はブラジルのAndressa/Vitoria組と対戦。第1セットはサーブポイントを量産され、9点にとどまった長谷川/坂口組だったが、第2セットはそれまでの沈黙を破るように息が噛み合い始める。長谷川のツー攻撃、坂口のブロックも効果的に決まり、デュースへ持ち込んだ。相手のマッチポイントを何度も裁ち切り、フルセットへ望みをつなぐラリーを展開。しかし、最後はサーブポイントを決められ、26-28とゲームセット。2敗目を喫した。
プール戦最終戦は、リトアニアのPaulikiene/Raupelyte組と対戦。前日同様、第1セットをとられたものの、第2セットはデュースに持ち込んだ長谷川/坂口組。しかし、突破口が開けず、0-2(13-21,21-23)と3敗目を喫し37位タイで終了した。
立ちはだかる世界の壁
10日に行われたラッキールーザーに進出した石井/溝江組は、長谷川/坂口組と同じプールだったリトアニアと対戦した。勝利すれば、昨年の世界選手権同様、決勝トーナメント進出が決まったが、0-2(17-21,17-21)となす術なく敗れ、33位タイで終了した。
世界の厚い壁に阻まれた石井/溝江組。石井は「今回、ドイツやブラジルなどの強いチームとはなかなか対戦する機会がないので、手応えを掴みたかった。レベルの高いチームは、必死で拾った1本目をつないでいいトスにして攻撃を決めていける。私たちはつなぎの精度が甘く、そこを確立できていなかった」と課題を口にした。
アジアツアーのランキング上位をキープし、アジア代表として出場した長谷川/坂口組も厳しい戦いを強いられた。アジア競技大会を含め、初のビッグゲームを経験した坂口は「大会の雰囲気はこれまでの大会と比べものにならない。砂も深く、高さで追い込まれるとアイデアも浮かばなくなってしまった。今取り組んでいるジャンプサーブ、ツー攻撃を含めもっと精度を高く、積極的に仕掛けていかないと戦えない」と悔しさを見せた。
前年の世界選手権では、ペア結成1年目だった石井/溝江組が出場し、19年ぶりの好成績をたたき出した。今大会ではそれ以上の成績を狙っていったが、2024年にフランス・パリで開催されるパリオリンピックに向けて、ギアを上げてきた世界の強豪国の力を見せつけられた大会となった。